財務から見るAI企業 ~プロジェクト型編~ | QuestHub Insights

財務から見るAI企業 ~プロジェクト型編~

前編ではAI企業のビジネスモデルをAIライセンスやソフトウェアを販売する「サービス型」と、AI関連のコンサルティング業務を行う「プロジェクト型」の2種類に分け、そのうちの「サービス型」AI企業であるPKSHAHEROZユーザーローカルKudanの4社を紹介した。
後編で紹介するのはRPAサインポストLTSといった「プロジェクト型」AI企業。これらは企業に対するIT分野のコンサルティング事業と、AI技術を用いたサービス事業の2つを主な事業としている。

前編で紹介した「サービス型」のAI企業が、軒並み高い営業利益率を誇るのと比べ、利益率は低いものの売上をきっちり出して着実に成長しているのが「プロジェクト型」のAI企業である。調べてみると、各社の企業努力に特色がみられた。
(QuestHub Insights編集部)

AIのイメージ(AIのイメージ、Gerd AltmannによるPixabayからの画像)

「AI」といえど中身は千差万別

「プロジェクト型」のAI企業が提供するAI技術を用いたサービス事業の現状に目を向けてみるとそれぞれ大きく特色が異なる。ここでは、各企業のサービス事業については、事業形態に基づき、RPAは「アドネットワーク事業(2018年度より「ロボットトランスフォーメーション事業」に改名)」、サインポストは「イノベーション事業」、LTSは「プラットフォーム事業」と定義している。

高い生産性を誇るRPAのロボットトランスフォーメーション事業

RPAの事業は、ロボットアウトソーシング事業、ロボットトランスフォーメーション(旧アドネットワーク)事業、セールスアウトソーシング事業、コンサルティング事業の4つのセグメントから構成される。

現状ではロボットアウトソーシング事業とロボットトランスフォーメーション(旧アドネットワーク)事業がRPAを支える二大事業である。ロボットアウトソーシング事業はコンサルティング事業とサービス事業の2つからなる。

コンサルティング事業は他社ソフトウェアベンダーからソフトウェアを仕入れ、様々なサービスと組み合わせたプラットフォーム「BizRobo!」によるロボティクスを導入する。

アドネットワーク事業は医療人材系領域のアフィリエイト型の広告サービス「PRESCO」やAIやRPAの情報提供を目的とした会員制メディアである「RPA BANK」を運営している。

ロボットトランスフォーメーション事業の圧倒的な生産性

RPAの特筆すべき点の一つは従業員一人当たりの総売上高が約7,100万円と高い水準を誇っている点だ。サインポストは約2,700万円、LTSは約1,670万円である。この生産性の高さを生み出しているのは何なのか。事業別に見ると、ロボットトランスフォーメーション事業(旧アドネットワーク)が1億7,000万円と突出している。

RPAのロボットトランスフォーメーション(旧アドネットワーク)事業はアフィリエイトサービスのPRESCOが主要サービス。アフィリエイト業界の他の企業と比較しても従業員一人当たりの売上高は高い水準の数値を示している。この要因は広告領域におけるロボティクスの導入にある。従来の広告代理店が担っていた業務をロボティクスによる自動化で代替することで、空いた人手をサービスの企画や構築に充てることができているという。リソースの有効活用により生産性が大きく上がり、高い収益に繋がっている。

RPAロボットトランスレーションの具体例※引用: 2018年2月期第3四半期決算説明資料

前述の通りRPAはセグメント別の事業名を変更しており、アドネットワーク事業は「ロボットトランスフォーメーション」事業に、またセールスアウトソーシング事業とコンサルティング事業は「その他(セグメント外)」へと改名した。
また、RPAはロボットトランスフォーメーション事業を推進するため株式会社ディレクトを子会社化。ディレクトはネットメディアやアドネットワーク事業を運営していた。

これらよりRPARPAソリューションの導入や活用分野に注力していることが伺える。

ITRの調査「ITR Market View:RPA/OCR/BPM市場2018」によると、RPAソリューションの市場は2017年度に35億円であったのが、2022年度には400億円とCAGR62.8%の大きな拡大が見込まれている。2019年3月にマザーズ上場から僅か1年で東証一部へ昇格したRPAは今後も更なる事業拡大の余地が期待できる。

コンサルティングからAIプロダクトに挑戦するサインポスト

サインポストは、顧客のニーズに合わせてコンサルティング・ソリューション・イノベーションの3つ事業を展開する。

サインポスト
※引用: 2018年2月期決算説明資料

同社は元々は主に金融機関向けのコンサルティングをするコンサルティングファームとして創設され、競合が少ない金融機関の勘定システム導入などを強みにしている。後述するLTSと同様にコンサルティング事業が売上高の7割近くと多くを占める。また、ソリューション事業ではコンサルティング事業により培った知見とITベンチャーの先端技術を用いて顧客のニーズに合わせた新しいサービスを提供。同事業は主力のコンサルティング事業とともに成長し、2017年11月にマザーズに上場している。しかし、今期は注力する事業の転換を図っていることが2018年度の業績からも見てとれる。

セグメント別で見るとコンサルティング事業は毎年着実に事業拡大しているが、ソリューション事業は2018年度に前年比-62%と大きく下がっている。

サインポストで2017年度に一人当たりの売上高が最も高かった事業は、ソリューション事業の9,200万円であった。今やそのソリューション事業の人員を減らしてまでイノベーション事業に要員を集中し、後者の主力プロダクトである無人レジ「ワンダーレジ」と店舗型「スーパーワンダーレジ」の開発販売に注力しているのだ。

ワンダーレジ及びスーパーワンダーレジとは何か。

これらは電子タグを用いたセルフレジとは異なる。同社が独自に開発した人工知能「SPAI」と画像認識技術を用いた決済手法である。ワンダーレジは商品をレジ内スペースに置き、搭載されたカメラが商品画像を認識し自動で会計を行う。スーパーワンダーレジは店舗自体を一つの無人レジシステムにしてしまうものであり、店内設置のカメラが入店時より客を追跡し、購入商品を把握し自動決済を行う無人店舗である。

そもそもなぜコンサル企業が無人レジを売るのか。背景には蒲原寧社長のこだわりがあったという。蒲原氏三和銀行(現三菱UFJ銀行)のシステム分野に勤務していたが独立し、2007年に金融機関コンサルティングのサインポストを立ち上げた。レジの技術の進歩に大きな可能性を見出し、7,8年ほど前にコンサルティング事業が安定したタイミングを計って無人レジの開発に着手したという。

同社は2021年2月期までに合わせて3万台の無人レジの販売を目指している。

国内での労働人口の減少などを背景に無人レジの需要は高まっている。米国では昨年1月にAmazonが無人店舗Amazon Goをオープン、また日本では米国企業スタンダードコグニションが仙台市の薬局店舗にて今夏の導入を計画している。サインポストは今年2月に国内でいち早くJR東日本と協力のもとスーパーワンダーレジを用いた実証実験をJR大宮駅で実施。国内市場においては先行している。

PRESIDENT onlineに2018年2月22日掲載された「日本発無人レジは”Amazon GO”に勝てるか サインポストはコンビニを救うか」よりワンダーレジの単価は150~200万円と予定されており、計画通りに3万台が売れれば450憶から600億円にも上るイノベーション事業。脅威となる競合相手が現れる前に是非とも成功にこぎつけたいところだ。

事業基盤ができつつあるLTSのプラットフォーム事業

LTSの事業内容はプロフェッショナルサービスとプラットフォームの大きく2つに分けられる。プロフェッショナルサービス事業はさらにコンサルティングとデジタル活用サービス、ビジネスプロセスマネジメントの3つの事業で構成されており、業務改善やIT導入などのコンサルティング業務が中心となる。今回のAI技術を用いたサービス事業に相当するのはプラットフォーム事業である。

LTSの事業構成※引用: 2018年12月期決算説明資料

プロフェッショナルサービス事業の強みはロボティクスやAIといった先進的なテーマにおける経営変革支援であり、大手化学メーカーDICを筆頭に日系大手企業を中心としたサービスを展開している。
プラットフォーム事業は、企業と人材のマッチングサービスや人材育成サービスを提供しており、これまではIT企業とIT人材の会員制マッチングサービスを提供する「アサインナビ」によって成り立ってきた。

2016年度から2018年度までの業績推移を見てみると、好調を維持している。一方で、2017年と2018年のセグメントごとの売上高を比較してみると、その成長度合いにはばらつきがあることが分かる。

※引用: 2018年12月期決算説明資料

セグメント別にみると、プロフェッショナルサービス事業は軒並み好調であり、特にデジタル活用サービスが対前年比で77.8%の増加と大きく伸びている。これは、LTSが近年大手ICT企業やシステムベンダーとのM&Aや業務提携等の成長投資を積極的に行っており、デジタル案件のワンストップでサービスを提供できる体制構築や、デジタル人材の確保による事業強化が背景にある。

一方で、プラットフォーム事業はどうだろうか。プラットフォーム事業は会員制サービス「アサインナビ」が主な収入基盤となっており、現在は会員数が1か月あたり企業60社、フリーランス100名と増加傾向にある。2017年度には大手コンサルティングファームよりアサインナビデータの提供依頼があったため2,000万円ほどの特需収入が含まれており、それを除くと確かに売上高の伸びは見られる。

より詳しく現状を見てみると、アサインナビについて、基本的には会員数に比例した売上高が見込まれるサービスであると考えられる。収益構造は「会費」と「成功報酬」の2つである。

会費支払いの対象となる法人会員数の推移を四半期ごとに見ると、法人の会員数の増加ペースは徐々に減っており、それによって会費による収入も同様のペースを辿ると予想できる。もう一つの収益である成功報酬(企業とSEやコンサルタントのマッチング)について、プラットフォーム事業売上高から全法人会員による年会費を引いた値が対応すると仮定すると7,000万~8,000万円であまり変動がないように思われる。

しかし、これらはあくまで現状の話だ。LTSはこれまでアサインナビによる顧客会員数の着実な拡大を続けることで、プラットフォーム事業の基盤を築いてきた。それに伴い、今後は顧客会員向けの教育・研修サービスや蓄積されたIT企業の取引信用情報の提供サービスのリリースを予定している。

また、このプラットフォーム事業はプロフェッショナルサービス事業と完全に独立しているわけではなく、LTSは会員基盤の活用による大きなシナジーの創出による更なる事業拡大を狙っている。

いずれにせよ、プラットフォーム事業規模は全体の約5%と非常に小さく、本記事で取り上げる3社の中でもとりわけコンサルティングファーム色が強いAIベンチャー企業といえる。一方で、このプラットフォーム事業は単なるオプション的な立ち位置に留まらず、大きくプロフェッショナルサービス事業を推進する触媒にも成りうる。

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