【独占】アーガイル・ストリート・マネジメント キン・チャンCIOインタビュー | QuestHub Insights

【独占】アーガイル・ストリート・マネジメント キン・チャンCIOインタビュー

「物言う投資家」という言葉は広く知られているものの、その素顔は驚くほど見えない。ここで紹介するのは香港を基盤にアジアの各国で活躍する投資ファンド、アーガイル・ストリート・マネジメント社(Argyle Street Management Limited、ASM)の創業者で最高投資責任者(CIO)であるキン・チャン氏だ。日本では東芝への投資で注目を集めた。
(ミラー 和空)


アーガイル・ストリート・マネジメントのキン・チャン最高投資責任者

日本の投資家以上に “日本的な” 投資家

日本における「エンゲージメント投資」

「私には三人の娘がいて、三人とも日本のお菓子が大好きです。日本には頻繁に来訪し、その都度、コンビニに直行します。日本の華やかで美味しいキャンディをいっぱい買って帰ります。香港ではなかなか見つからないものがたくさんあるからです」

こう話しはじめるのは、〝物言う投資家〟としてアジアで話題を呼んでいるキン・チャン氏ゴールドマン・サックス証券の香港、ニューヨーク、シンガポールの各拠点で働き、その後国際的金融グループであるラザード・アジア・リミテッドの最高経営責任者としてのシンガポールでの勤務を経て2002 年にアーガイル・ストリート・マネジメント社を香港に設立した。

チャン氏はインド、インドネシア、英国、オーストラリア、韓国、シンガポール、タイ、台湾、中国、マレーシアなど各国で多くの投資案件を手がけた実績の持ち主であり、その総額は150億ドル(約1.65兆円)を上回る。ASMでは東南アジアを中心に〝付加価値型投資〟を展開し、事業を伸ばしている。このビジネスモデルを〝エンゲージメント投資〟と言って、投資先に対して資金だけでなく、技術や経営術、取引先なども提供して財務・実務の両面で投資先の持続的成長に貢献する形の投資手法だ。

香港生まれのチャン氏は米国のプリンストン大学を卒業後、ペンシルベニア大学ウォートン校で経営学修士号を取得したのち、ゴールドマン・サックスに入社したエリート中のエリート。しかし、話してみると、庶民的とも言える低い物腰と愛嬌のある面持ち、気の利いた話題で相手を和ませる温厚な紳士だという印象を受けた。

日本に潜む〝眠れる巨人〟

チャン氏は日本市場についてこう語る。


(キン・チャン最高投資責任者)

「今なお米国・中国に次ぐ巨大な規模を誇る日本は膨大な市場を国内に有しています。そのため、今までは企業が内需に甘んじても——あえて海外の市場に目を向けなくても——十分にやっていける状況でした。今までは、ね。しかし、少子化や高齢化が進み、人口が減少に傾き始めた今は、そうはいきません。

もちろん、一部の業種の輸出攻勢が日本経済の成長に大きく寄与してきたことは言うまでもありません。自動車ならば、トヨタホンダは全世界で有名です。また、一般人には社名が浸透していなくても、工作機械や電子部品などの分野で〝縁の下の力持ち〟として世界市場で驚異的な競争力を発揮している会社もあります。しかし、日本の産業界全体を見渡したところ、そういう〝成功例〟はむしろ例外です。

今、会社が存続するためには、経営陣は国境をまたぎ越す展望を持たねばいけません。さきほど例に挙げたお菓子のように、十二分に海外市場に通用する魅力があり、競争力のある商品を持っていながらも、まだ海外展開を限定的にしか、あるいはまったく試みていない会社が多い。そのような〝眠れる巨人〟の目を覚まして、新たな成長の機会に導いていくのが我々のミッションです」

ASM の貢献事例

チャン氏は日本の企業を「新たな成長の機会に導いた」2社を例に挙げて語る。ひとつは東京都に本社を置き、屋内電気設備、送配電線設備、空調給排水設備などの工事を行う株式会社サンテック。もうひとつは本社を宮城県に置き、通信設備及び電気設備の設計・施工・保守、情報関連設備のシステムインテグレーションなどを行う株式会社TTKだ。

サンテック
1937年、広島市で設立され、56年に本社を東京に移した。設立以来、主力の内線・電力工事で実績を築き上げてきた。2018年3月期の売上高は409億円。事業活動は国内市場を中心に発展する一方、東南アジアを中心に海外でも事業を徐々に広げ、18年3月期には海外事業が売上高の約4分の1を占めた。1973年より東証二部に上場している。

ASMは東南アジアで不動産投資を手がけている関係で現地の不動産開発業者や建設業者とのパイプが太い。同社はサンテックの高い技術力に着目し、その技術力が東南アジアで「新たな成長の機会へ導く」可能性となることを察知して、株式を買い始めた。株主として経営陣との対話を開始し、海外の事業展開の加速化を勧めて、自ら顧客を紹介した。経営陣はASMの建設的な申し入れを快く承諾し、紹介された需要家との取引を開拓した。
サンテックが事業の展望を広げた結果、同社の企業価値の増大につながり、目論見どおり株価も上昇した。ASMはその恩恵を受けるかたちで 18年2月にサンテックの株を手放して、株価上昇の利益を得た。また。ASMがサンテックの株式を売却してからも両社の親密な関係は続いた。例えば、同社が保有する遊休不動産の活用についての相談や、もし株価が下った場合には再度購入してくれないかとの打診もあると言う。

TTK
1995年、東北における日本電信電話公社認定の電気通信工事業者6社の合併により、東北通信建設株式会社として仙台市に設立された。東北地方で最大手の電気通信建設業者としてNTT関連工事を中心に事業を伸ばしてきた。2018年3月期の売上高は325億円。

頑丈な事業基盤や強力な施工能力はもとより、無借金経営で内部留保を豊富に貯めており、経営方針次第で大きく成長する可能性を秘める優良企業。しかし、PBRは約0.5〜0.6倍にとどまっており、割安銘柄としてASMの目を引いた。ASMは2016年にTTKの株式を買い始め、2017年7月までに発行済株式の約5%を購入し、第一生命保険株式会社(4.91%)と並ぶ大株主になった。併せて、TTKの本来の企業価値が株価に現われていないことについて経営陣に対して問題提起をして、改善策を提案した。

改善策の内容は次の3点:
1. 東北市場の飽和状態をTTKの成長性の制約として直視し、新たな成長を図るためには海外展開に踏み出すこと
2. 余裕資金を有望な投資活動あるいは株主還元に充て、資本効率を高めること
3. 企業統治体制の活性化に向けて、NTTのOBが大半を占めている取締役会の人事構成に多様性をもたらし、経営の展望を広げること

ASMのチャン氏らが仙台と東京で5回にわたり、TTKの社長など経営陣と会い、ASMの提案について協議を行った。この直接の接触と前後して一連の手紙のやり取りで意見を交換した。TTKの経営陣はASMの提案に対して理解を示し、具体的な改善策に着手した。例えば、新しい事業分野の開拓を含む新規事業計画を作成し、特別配当を支払ったほか、社外取締役を増やした。

ASMはこれらの施策を、同社の提案で呼びかけた新たな成長への布石、資本効率の向上、取締役会の多様化の現れとして歓迎した。それと同時に、まだ不十分だとも指摘した。例えば、社外取締役の増員として迎えた新役員がNTT出身者であり、「社外取締役」と言えるものの、「独立社外取締役」ではない、と問題意識を会社側に伝えた。

最終的に、改善策が功を奏して、企業体質の強化が着実に進んでいるTTKの買収に乗り気の企業が現れた。2018年4月、国内外に多くの電気通信工事業者を傘下に持つ、持ち株会社である株式会社ミライト・ホールディングスは、TTKの株式を当時の株価より29%も高く評価する株式交換で完全子会社として傘下に収めた。長年停滞していたTTKの株価は、ASMが同社の経営陣との対話を始めてから株価が64%も上昇した。

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