信頼できるのは企業よりインフルエンサー ―中国でライブコマースが流行るわけ― | QuestHub Insights

信頼できるのは企業よりインフルエンサー ―中国でライブコマースが流行るわけ―

上海の喫茶店で中国人ラッパーに会ったことがある。決して有名ではなかったが、有名になろうとはしていた。彼は友人数人と一緒にソーシャルメディアアカウントを運営しており、8万人のフォロワーを3000元で買ったという。たった3000元で有名になれるのなら、安いものだと思った。しかし、そのとき私は中国ではほとんどの人がフォロワーを買うため、8万人のフォロワーでは「インフルエンサー」という称号には程遠いということを理解していなかったのだ。
(QuestHub Insights編集部 Gregory Tulchin)

中国インフルエンサーマーケティングの急進化

インフルエンサーマーケティングとは、今や世界中で使われている必要不可欠なマーケティング戦略のことだ。企業が自社製品を宣伝するために大量のフォロワーを持つソーシャルメディアユーザー、「インフルエンサー」を使用する場合、これをインフルエンサーマーケティングと呼ぶ。

さて、先程のラッパーの話に戻るが、ソーシャルメディアのフォロワーは実際には購入できるものではない。彼らが売買しているのは「フェイク」フォロワーであり、使用されているように見せかけた実際には誰にも使用されていないユーザーアカウントだ。そうしたアカウントの作成は非常に容易であり、安価でフォロワーを売買する専門の会社も存在している。

例えば、2018年に中国大手通信社、新華社が偽フォロワーを購入していたことで物議を醸したデバミー(Devumi)社は、Twitterのフォロワー1,000人を17ドル、YouTubeのチャンネル登録者500人を49ドルで販売している。

また、日本にもツイッターズ(twitters)という会社があり、Twitterのフォロワー1,000人を5,600円、YouTubeのチャンネル登録者100人を2,500円で販売している。10年以上前からアクティブなアカウントや、電話番号またはメールアドレス認証を経た「高品質」なフォロワーも提供している。

ソーシャルメディアの規制が厳しく不正行為が嫌われている西欧諸国では、このような行為は限られている。しかし、とにかく前進することにより一層敬意が払われる中国では、偽の信者を買うことがインフルエンサー、Key Opinion Leader(KOL)になる過程で今やほぼ不可欠なステップとなった。

しかし、企業がフェイクフォロワーの影響で実際のフォロワー数を把握できなくなると、既存のインフルエンサーマーケティングの企画ではKOLと協力することが難しくなる。その結果企業は別のオンラインツールである、KOLライブストリーミングコマースを利用するようになった。このツールについて説明する前に、まずは中国でライブストリーミングがどのように機能しているのか簡単に説明したい。

KOLライブストリーミングとは、インフルエンサーが自分のファンに向けて、自分自身をライブ配信することだ。この種の活動は2010年頃から流行し始め、農村部に住む中国人視聴者が大都市に住む美女やイケメンのKOLとダイレクトに繋がりを感じられることから人気が高まった。視聴者はライブストリーミングプラットフォームを通してKOLの会話、歌、ダンス、演奏を観てチップを払うことができ、コメントを投稿することもできる。ライブストリーマーはこれらのコメントを読んでリアルタイムで返信し、ファンとの間に強い感動を生み出すのである。

もちろん農村部居住者にも有名なKOLは存在するが、前者とは違って、地域の視聴者は自分と同じような境遇の仲間が大都市のKOL並みに成功するために支援することを楽しんでいる。例えば、かつては路上販売者として稼いでいたMC Tianyouは数百万人ものファンを集め、2017年には年間1,100万ドルの収入があることを明らかにした。しかし、2018年にテレビ番組でライブストリーム中に薬物に言及したことが報じられると、彼の存在は瞬く間にオンライン上から消え去った。

2017年の初めから、中国でのライブストリーミングは勢いを失い始めていた。毎年信じ難いほどの変化が起こる中国にありながら、5年以上も目立った形式の変化がなかったのだ。業界はまだ成長していたが、視聴率はゆっくりと減少していた。まさにこのような状況の中で、中国のライブストリームコマースが始まったのである。

ライブストリームコマースとは、KOLなどのストリーマ(配信者)が、製品の販売をライブストリーム(生配信)することだ。多くのストリーマは今まで行っていた会話、歌、ダンスなどの配信ではなく、単に商品を紹介して視聴者に購入させることを目標に配信を行っている。この目標を達成するため、多くの企業は放送中に表示できる特別な割引コードをストリーマに提供している。

これには2つの利点がある。1つ目は、割引コードはその日のライブストリームの間だけ有効であることが多く、視聴者の即時購入を促せること。2つ目は、売り上げを通してそのインフルエンサーがどれだけ信頼できるかを会社が正確に把握できることだ。フェイクフォロワーを持つインフルエンサーは、このシステムでは生き残れない。視聴者は自分が憧れるインフルエンサーのオススメと知ると、商品説明ページを読むことなく商品を購入する。このように、企業はインフルエンサーに自社製品に関するビデオを作成・投稿させるより、ライブストリーミングで販売させる方が強力な宣伝になると実感している。

ベンチャーキャピタル会社、クライナー・パーキンス(Kleiner Perkins)の2017年の見積もりによると、中国では、ライブストリーミングの1時間あたりの収益が、モバイルゲーム、テレビ、ラジオ、ビデオ、音楽よりも高かった。また、2017年の中国のライブストリーミング業界のトレンドレポートによると、回答者の41.25%が少なくとも1回はeコマースのライブストリーミングを視聴していた。そして2017年以来、これらの数字は間違いなく急増し続けている。オンライン販売大手のTaobao(淘宝網)は、自社のコマースライブストリーミングプラットフォーム、Taobao Liveが今年も成長を続けると予想しており、その後売上高は1000億元に達し、前年比で400%増加した。一方Amazonは、2019年にAmazon Liveというストリーミングサービスを開始したが、このプラットフォームにはストリーマと視聴者が交流できる機能が不足しているなど明らかな欠陥がある。

現在中国には200を超えるライブストリーミングプラットフォームが存在しており、その中でもTaobao LiveJD(京東商城) Liveが最も有力なプラットフォームとして業界を独占している。しかし、他のプラットフォームにもそれぞれ独自の機能があり、例えばYizhibo(一直播)は中国の主要なソーシャルアプリの1つであるWeibo(微博)と直接統合されている。TikTok(抖音)Kuaishou(快手)ももちろんこの産業に参入し、TikTokは買い物カゴ機能を追加し、Kuaishouは複数のライブストリーミングプラットフォームと統合を行った。

中国で、一人のライブストリーマがどれほど強い影響力を持てるだろうか? Viyaは、1回のライブストリーミングセッションでの売り上げが数億元にものぼることで知られるライブストリーマだ。美容KOLであるAustin Jiaqi Li、通称「Lipstick Brother (口紅お兄さん)」は、1日に300個の口紅を試着し、視聴者に紹介する。彼はかつて、たったの15分で15,000本の口紅を販売した。

これらのライブストリーマは、特定のブランドとコラボし、特別割引やその他ユニークな限定セールなどのイベントを度々開催している。

ライブストリーマは自分の家や所属する会社の配信スペースから配信するが、あまり人気のないストリーマは、実店舗で撮影して視聴者に様々な商品を紹介してリアルタイムで販売することもある。一部のストリーマは、このためだけに日本と韓国を行き来する。ファンが少ないため大量に製品を売ることは難しいが、単価の高い高級製品となれば話は別である。300人以上の安定した顧客を獲得することができれば、生計を立てることができるのだ。特に日本の製品は中国で高い評価を得ており、一部の中国人からは「God(神)」と称されている。

日本でも、中国と同じようにライブストリーミングによる販売が普及するだろうか。最終的にどうなるかはまだ分からないが、今のところ中国での普及ほど順調ではなさそうだ。DeNALaffyと呼ばれるライブコマースサービスを開始したが、2017年3月の発売からわずか1年でサービスを停止した。

他の企業も日本人の視聴者に対してこのようなサービスを浸透させる試みを続けるだろうが、そもそも日本人視聴者はライブストリーマと強い感情的な絆を築く必要性を感じていない可能性がある。テレビが国営で、過度に情報統制されている中国であったからこそ、ライブストリーミングがもたらすリアリティーに価値があったのではないか。

ライブストリーミング市場の興味深いプレーヤー

農家は、ライブストリーミングブームの予期せぬ勝者である。収穫した野菜や果物、育てた家畜などを視聴者に配信を通して紹介し、そのまま販売ページに誘導するのだ。田舎で人が少ない地域に住んでいる農家でも全国に農作物を販売することができるようになり、Taobao Liveはこの農業ライブストリーマの売上に大きな感銘を受けた。中国における農村部の貧困緩和のための、非常に革新的な戦略になりうるだろう。

投資家は、秘密裏に特定のライブストリーマのライブストリームに多額の支援を投じ、「投資」することがある。これにより、ライブストリーマはプラットフォーム内でのランキングを上げ、ユーザ全体からの注目を集め、視聴者数を増やすことができる。投資家は、投資したストリーマの将来の利益の何割かを受け取ることで利益を得る。

国際線の客室乗務員は、「個人の転売者」としてアルバイトをするのに最適な立場にある。彼らは日常的に多くの国を行き来するので、顧客のために製品を持ち帰ることができる。このモデルは典型的なライブストリーミングによる販売とは少し異なり、実際に一度製品を購入してからより高い価格で顧客に再販している。実は、かなりの割合で、客室乗務員やツアーガイドはこの種の仕事をしていると言われている。そして、日本から中国へフライトでは、乗客の約半数が商品を転売するために持ち帰っているとも言われているのだ。

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