TikTokの「次」 中国のVlog最新事情 | QuestHub Insights

TikTokの「次」 中国のVlog最新事情

私は中国で最も物価が高い都市のうちの一つである上海に住んでいる。そんな私は地元の住民と会うとき、よく「中国のテレビ番組や映画、ネット上の動画でも何でもいいので、何か面白い動画コンテンツを教えて」とお願いする。だが、これといったおすすめ動画を持っている人はほとんどいない。たいていの場合、映画館でそのときに一番人気がある映画を勧められる。先日、中国人の友人2人(男女1人ずつ)に言われたのは、湖南テレビは素晴らしいテレビ局なのでぜひ番組をネットで調べるべきだということだ(実際に中国中部の湖南省は人気のテレビ局があることで知られている)。私が具体的に湖南テレビのどの番組がおすすめなのか聞くと、2人はそろって「全部良いよ」と答えてしまった。
(QuestHub Insights編集部 Gregory Tulchin)


(Vloggerのイメージ)

未発展地域でも伸びるショートビデオ

ほとんどの中国の1線都市(上海や北京、広州などの大都市)に住む人には娯楽に割く時間があまりない、というのが真実だ。上海の平均月給は6,378人民元(7月29日時点のレートで100,718円)。これは上海の中心街の一般的な賃貸の(コスト)にほぼ等しい。そのため、上海のような物価が高い都市に住む人々は動画コンテンツを見る間を惜しんで、生き残りをかけてアルバイトをするなど一生懸命働いている。

国内の娯楽産業を主に支えているのは2線都市や3線都市、それよりも小さな町や村といった中国の残りの地域だ。こうしたところの住民の給料は1線都市の住民よりも低いが、生活コストに関してもはるかに低いため、人生を楽しむための時間がある。とはいえ、少ない月給では旅行などの娯楽を楽しむのは難しい。これこそが中国においてショートビデオの台頭の背景だと私は考えている。

音楽付きの短い動画を作成できる中国発のアプリ「TikTok(ティックトック、中国名:抖音)」は、いまや日本でも大人気なのでここで詳しく紹介する必要はないだろう。もともと、この動画共有プラットフォームはユーザーがアップロードできる動画を15秒までに制限したことで有名になった。TikTokにアップロードされた動画は、中国の地方都市や農村部の住民に、これまで馴染みがなかった中国国内の他人の人生(特に大都市に住んでいる人の人生)を見る機会を与えた。

TikTokを同じ中国発のショートビデオサービス「快手(Kuaishou)」と比較するとさらに興味深い。TikTokは私が住む上海では未だに大人気な一方で、快手を利用している人は見たことがない。だが、驚くべきことに、快手には20億人近い登録ユーザーがいるという。さらにその88%は大学を出ておらず、そのほとんどは中国の未発展地域に住んでいるという。
(“Who’s Chinese? The Farmer-Turned-Livestreaming Star Who’s Challenging China’s Ideas of Racial Identity”)

TikTok快手、異なるユーザー層

こうした事実はTikTokと快手のそれぞれにアップロードされるコンテンツのタイプに影響している。TikTok快手と比べて「夢のような」コンテンツ(踊ったり、キュートなことをしたりする大都市の美少女)がアプリ上のコンテンツのかなりの割合を占めている(日本とあまり変わらない状況だ)。

TikTokの例)

一方、快手にはTikTokよりもずっと「共感できる」コンテンツが多い。頭上の爆竹に点火する様子や、汚いジョークを言う田舎の農夫、ビールを飲むティーンエイジャー…こうしたものは快手にアップロードされている「地元の英雄」たちの様子のいくつかに過ぎない。

快手の例)

このように、TikTokは中国の農村部の人々が都市部の生活を見ることを可能にし、快手は農村部の人々が自分自身を表現し、他の農村部の住民達に自分達の存在を確立することを可能にしたのだ。

TikTok快手の大きく異なるユーザー層は、こうしたプラットフォームを作成したそれぞれの企業のタイミングを反映していると私は考えている。

TikTokは2016年にByteDance(バイトダンス、中国名:字節跳動)によって設立された。同社はいま世界中で最も高い企業価値(約750億ドル)があるとされているスタートアップだ。

ByteDanceは16年にTikTokを生み出す前は、AI(人工知能)を活用してユーザーごとのコンテンツを提供するニュースアプリ「今日头条(Jinri Toutiao)」を運用していた。このAI技術を利用してByteDanceは18~34歳のユーザー基盤をターゲットとすることができた。

ByteDanceがこの年齢層のユーザーをターゲットにした理由は、ソーシャルメディアに最もコメントをするのが18~34歳だからである。ソーシャルメディアにコメントをする年齢層を狙ったByteDanceの戦略により、TikTokの人気は中国で急速に広がった。

快手TikTokが誕生する5年前の2011年に北京快手科技(Beijing Kwai Technology)によって設立された。アプリを開発した当時、高度なAI技術がまだ存在してなかったため、快手はおそらく特定のユーザー層を狙うということをしていなかった。結果として自然と一番人口の多い労働者階級になった。

こうした労働者階級の人口が多いロシアや東南アジアでは快手の方が人気があるが、発展している日本、韓国、西ヨーロッパやアメリカではTikTokが上回る。快手が労働者階級の間で人気を確立していたからこそ、TikTokは違うターゲットを狙ったと考えられる。

中国でのVlogの急成長

この二つのアプリがそれぞれ人気を獲得していく中、2018年9月に、中国で「Vlog(ヴログ)」という単語の検索数が急激に増加した。

Vlogというのはある人物の日常を記録する映像である。ごく平凡な行動でも、特別な出来事でも、全部記録することで視聴者にクリエイターへの親近感を持たせる、というのがVlogの基本である。

YouTubeが誕生してから、欧米で人気Vloggerは沢山出てきたが、昨年までの中国ではあまり存在しなかった。しかし、ここ9ヶ月間でその数は飛躍的に増加した。

新しいトレンドを認めたかのように、2019年5月、TikTokはVloggerの需要に対応するため、動画の長さ制限を1分に引き上げた。なぜ中国で突然Vlogが注目されているのだろうか?

Vlogが注目されるのには2つの理由が考えられると思う。

一つ目の理由は、中国の農村部の住民の教育水準の向上だ。快手ユーザーの88%は大学を卒業していないが、独学する方法の発展にともない、中国の教育水準は年々向上している。そして、より高い給与を貰う国民はより多くの学びの機会を得ることができる。こうしたユーザーたちがが徐々にショートビデオを見なくなり、より心に働きかける映像を求めるのは自然な流れである。

二つ目に考えられる理由は、中国の農村住民における孤独感の高まりである。Vlogでは視聴者が配信者(クリエイター)の私生活の大部分を追うようになることで、配信者とより親しい関係を築くことができる。中国では多くの農村住民が仕事を求め都市部に移っているが、農村部に残された住民にとって、Vlogを見ることで都市部のクリエイターとより深い感情的なつながりが築けるのが魅力的に思えるのではないだろうか。

Vloggerは1分以上の動画が多いため、現在は日本でも中国版ニコニコ動画として知られる「ビリビリ(bilibili、中国名:哔哩哔哩)」や中国版Twitterとして知られるSNS「Weibo(中国名:微博)」といった動画の長さに制限がないプラットフォームにVlogをアップロードしているクリエイターが多い。
Vlogは昨年までは中国で全く知られていなかったが、いまや200万人以上のフォロワー数を獲得するVloggerは多数いる。中国の変化はとにかく早い。

Vlogは、クリエイターと視聴者との間に強い感情的な繋がりを築くことができるため、中国のブランドはこれを利用した自社製品の宣伝に必死だ。信頼できるクリエイターが特定のブランドの商品を宣伝すると、視聴者はよりその商品を試したいと感じる。中国では家族の価値が非常に高く、また、自分と身近な人に絶対的な信頼を置くため、こうした宣伝の方法が効果的になる。日本でもVlogを作るユーチューバーが現在流行っていく中、この広告の仕方を国内の経営者の方にもおすすめしたい。

中国では今後もVlogのトレンドは続くのだろうか? 答えを出すのは難しいが、一つ分かることは、中国でのショートビデオの人気はまだ続いているということだ。実際に中国で何日か過ごせば分かるが、日本と比べても多くの中国人はスマートフォンに夢中になっている。友人とご飯を食べているときでも、皆テーブルの上に自分のスマホを置き、会話の途中でも新しいメッセージが来ていないかを常にチェックしている。またトイレに行くときでも、歩いている間に15秒のビデオを何本か見ることができる。しかし、Vlogはこうした短い時間で見れるものではない。

Vlogというトレンドが本当に社会の変化の表れだとすれば、快手にとって望ましい傾向ではないと考えられる。農村住民の品がよくなればよくなるほど、快手という比較的低俗なコンテンツが多いプラットフォームから離れる可能性は否定できない。これからの展開に要注意だ。

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