「黒船」DAZNはJリーグを変えるか? | QuestHub Insights

「黒船」DAZNはJリーグを変えるか?

 南アメリカでサッカー最強の国を決める大会「コパ・アメリカ」。6月にブラジルで開かれた2019年大会に日本は招待国として参加。若手中心で挑んだ日本代表は2分1敗でグループステージ敗退に終わった。
 この代表戦3試合を独占放送したのが急成長している動画配信サービス「DAZN」だ。16年8月に日本市場に参入した同サービスは、17年1月にJリーグと2026年シーズンまで10年間で合計2100億円という破格の金額で放映権契約を締結した。
 スカパー!が保有していたJリーグの放映権を4倍以上の価格で買い取った「黒船」DAZNはJリーグをどう変えるのだろうか。
(QuestHub Insights編集部)


(画像はイメージ)

サッカー日本代表戦10年ぶり「テレビ中継無し」 放送したのはDAZN

「コパ・アメリカ見たい 何でテレビ中継ないんだ…」。

「コパアメリカ テレビじゃ見られないのか」。

初のDAZN独占放送となったサッカー日本代表チリ戦の当日、ツイッター上ではテレビで見られないことへの不満が散見された。テレビ中継がされないのは10年ぶりだという。

サッカー日本代表戦は昔から視聴率が高く、W杯ともなればテレビ視聴率は50%を超えることもある人気のコンテンツ。6月に開催された直近の親善試合のキリンチャレンジカップにおいても、2試合(トリニダード・トバゴ戦/エルサルバドル戦)とも視聴率10%を超えた。

コパ・アメリカは開催地のブラジルと12時間の時差があることで放送時間が日本時間の朝の時間帯(日本戦は3試合とも午前8時開始)となった。また、国際Aマッチウィークでなくクラブに対する選手召集の拘束力が無かったため、海外クラブ所属選手を一部招集できず、日本メンバーは若手中心となった。とはいえ、対戦相手はバルセロナのスアレス選手やPSGのカバーニ選手を擁するウルグアイ(FIFAランク8位)や、マンチェスター・ユナイテッドのサンチェス選手やバルセロナのビダル選手を擁するチリ(FIFAランク16位)など世界的な強豪チーム。加えてレアル・マドリードへの移籍が決まっていた久保建英(FC東京レアル・マドリード)が出場するなど注目度は高かった。

実際、初戦のチリ戦はDAZN(日本)のサッカーコンテンツで過去最多の視聴者数を記録。「DAZN、チリ戦のライブ視聴者数がサッカーコンテンツで過去最高を記録!J開幕戦と比較して約1.7倍に(goal.com)」によると、初戦のチリ戦の視聴者数はUEFAチャンピオンズリーグ(CL)決勝の視聴者数の1.6倍となったという。

日本代表戦という人気コンテンツを放送するなど勢いにのるDAZNは、2016年にイギリスのパフォーム・グループが立ち上げたスポーツ専門のOTT(オーバー・ザ・トップ)プラットフォーム[*1]である。世界9ヶ国で視聴が可能で、130種類以上のスポーツを年間10,000試合以上配信している。

DAZNマネーによる収益の変化

DAZNと契約した17年度のJリーグの営業収益を見ると、J1・J2・J3の合計が初めて1,000億円を突破している。19年5月末にリリースされた18年度(19年1月期)のJリーグ所属チームの営業収益の合計は、3月決算であるため集計が出来ない柏レイソル(J1)、湘南ベルマーレ(J1)、ジュビロ磐田(J1)、横浜スポーツ&カルチャークラブ(J3)の4チームを除き、既に1,146億円を突破しており、この時点で17年度の営業収益(上記4チームを含む全チーム)を既に超えている。18年除外された4チームの内3チームがJ1のチームであるため、全チームの営業収益は更に増えるだろう。

営業収益の内訳の中で最も増加が大きいのはJリーグ配分金で、17年度は前年度比で60億円増加している。Jリーグ配分金は5つに分けられ、中でも大きな2つは均等配分金と理念強化配分金である(残りの賞金、ACLサポート金、降格救済金の3つは本記事では扱わない)。

均等配分金は、その名の通り全クラブに均等に配分され、DAZNマネーにより17年度から大きく増加した。J1チームへの配分金は16年度の1.8億円から3.5億円とほぼ倍増している。

理念強化配分金は、DAZNマネーがJリーグに入ったことにより17年に新設された配分金である。J1上位4チームに支給され、19年までの3年間は、優勝すると翌年から3年に分け計15億5千万円が手に入る。

ちなみに17年度の決算資料には理念強化配分金はまだ反映されておらず、DAZNマネーの影響は18年度以降さらに上振れする。

これらの配分金により営業収益が増加したことがJリーグの選手強化を促していることも分かる。例えば17年には元ドイツ代表のポドルスキ選手がヴィッセル神戸に、18年には元スペイン代表のイニエスタ選手と元がヴィッセル神戸に、同じく元スペイン代表のトーレス選手がサガン鳥栖に加入(6月に引退)し、17年以降の選手強化が加速している。

もちろんヴィッセル神戸に関しては親会社である楽天の資金力もあるが、DAZNマネーの流入により選手獲得に踏み切れたのも事実であろう。

実際、Jリーグ全体のチーム人件費は17年度に497億円と、前年度の423億円から17.5%も増加している。17年度からJ3にアスルクラロ沼津(17年度の人件費は1億円)が加入したことを考慮しても、大きな伸びと言える。

DAZNの買い取りにより収益以外の変化も

また、Jリーグの試合動画をJリーグ側で管理できるようになったことで、TwitterFacebookなどのSNSに流れるゴールシーンなどの動画が増加。特定のチームの熱心なサポーターやコアなサッカーファン以外の目にJリーグが触れる状況を作り出せている。


YouTube上などに無料で見られる公式のハイライトも充実し始めた)

JリーグはDAZNと契約をしたことで、Jリーグ全試合の映像の制作権及び著作権をJリーグが保有することになった。これは当たり前のように感じるが、実はスカパー!と契約していた時期は、スカパー!が試合の映像の制作権及び著作権を保持していた。制作権をすべて他社に委ねることでJリーグ側のコストが削減されるメリットはあったが、一方で自由な制作が制限されていた。DAZNと契約した17年からは、Jリーグはすべての試合の中継・制作の権利を持つようになり、積極的に中継・制作のクオリティを上げている。

例えばカメラ台数に関しては、2018年のJ1リーグの試合のカメラ台数は、12~18台と、DAZN契約以前の5~6台と比べて格段に増やしている。カメラ台数が増えることでより立体的な映像が取れ、リプレイなどの映像も充実する。また著作権に関してもJリーグが保有するため、試合映像を自由に流せるようになった。

Jリーグのチームも17年以降に積極的にSNSに試合動画をアップロードしている。例えばサンフレッチェ広島が運営する公式Facebookページでは、17年のアップロード動画数は247動画と前年の38動画から6倍以上も動画が増えている。16年以前は練習の様子やスポンサーイベント等の動画のみを上げていたが、17年以降は試合のライブ配信や試合挨拶360度VRなど様々な動画を追加。動画コンテンツの充実を図っている。


サンフレッチェ広島は積極的に動画を活用している)

DAZNで放送を始めたことで、海外サッカーや野球など別のスポーツのファンがJリーグを見始める、ということもあるようだ。サッカー専門誌「サッカーキング」のインタビューに答えたDAZN Japanの番組編成/制作シニアバイスプレジデントの水野重理氏は「サッカーファンはサッカーだけ、野球ファンは野球だけ、という構図が崩れてきている。実はサッカーファンの中でもJリーグしか見ない人、海外サッカーしか見ない人に分かれていたのが、その壁も崩れてきている」と語っている。(2019年5月28日「【インタビュー】Jリーグ中継はどうして良くなったの? DAZN責任者に聞いてみた」より)

またJリーグを海外でも放映することで、海外のJリーグ視聴者を増やすことに成功している。例えば、元ドイツ代表のルーカス・ポドルスキ選手がヴィッセル神戸に加入してから、ドイツにおけるJリーグの視聴者が急増しており、1節あたりのアクティブユーザー数が約8倍に増加したという。

もちろんポドルスキ選手やイニエスタ選手が加入したことが主要因であると思われるが、海外に安定してJリーグを放映するプラットフォームを提供するDAZNがあるからこそ、ドイツでのJリーグに対する関心が高まっているのではないか。

2017年以降のJリーグの放映権料は1年あたりに換算すると約210億円と、海外リーグの放映権料と比較するとまだまだ安い。

1992年に設立されたプレミアリーグはその放映権料の高さから所属チームの収益が増え、同リーグへの高額移籍が増えた。海外での移籍金が高額になる理由として、選手が所属チームとの契約満了前に移籍を行うと違約金が発生するが、その高額な違約金をカバーするためである。海外チームでは高額な移籍金を払って優秀な選手を獲得する流れが強まっており、DAZNの放映権収入によりJリーグの財政が潤えば、日本もこの移籍市場に参入することができ、海外選手の獲得など、さらなる選手強化に繋がるだろう。

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