HISがユニゾへ異例の強行TOB。裏にあるユニゾの“激安さ" | QuestHub Insights

HISがユニゾへ異例の強行TOB。裏にあるユニゾの“激安さ”

「日本の株式市場において歴史的なTOBになる」。ある海外投資ファンド幹部がこう評価するのは、10日に発表された、旅行大手のエイチ・アイ・エス(HIS)による不動産事業やホテル事業を運営するユニゾHDへの株式公開買付け(TOB)だ。TOBが成立すれば、HISの保有株比率は19年3月時点の4.52%から45%まで上昇する。

異例なのはTOBに至る経緯だ。通常であればTOB実施会社は対象企業と事前に協議を行い、合意を取り付けた上で実施する。ところが、今回のTOBは事前協議なしに行われる。

また、高いプレミアムも注目のポイントだ。その背景にあるのはユニゾの割安さであるが、その問題点について見ていき、最後にHIS社長の澤田秀雄氏が手掛けた他のTOB案件を取り上げる。
(QuestHub Insights編集部 渡辺 拓未)


(東京都中央区のユニゾ八重洲二丁目ビル、7月に編集部撮影)

敵対的TOBの可能性

HISが公開した資料によれば、HISは本業の旅行事業以外に「変なホテル」のホテル事業や不動産事業など多角化を進めており、それらの領域で投資・協業の機会を探し、その中で、今回対象となったのがユニゾだった。そこで、HISは18年9月以降、複数回に渡って業務提携や資本提携についての協議を申し出たものの、ユニゾ側から協議をするような回答は得られなかったという。業を煮やしたHISはこれ以上協議の申し入れを行っても実現は困難と判断、資本関係のさらなる強化を目的にTOBの実施を決めた。

対して、ユニゾ側は社外取締役5名からなる特別委員会を設置。委員会からの答申内容を踏まえてTOBへの賛否を決めるという。もし、TOBに反対という結論に至れば敵対的TOBとなる。

敵対的TOBは今年はじめに伊藤忠商事がスポーツ用品大手のデサントに対して実施した事例がある。ただ、伊藤忠とデサントは古くから繊維事業で協業しており、伊藤忠出身者が社長に就いていた時期もあるなど関係の深い相手であった。今回は当事者であるHISユニゾの間に事業上の関係性はほとんど無い。

また、高いプレミアムも今回の特徴だ。HISが提示したTOB価格は3100円で、過去半年間の平均株価2002円を54%上回る価格だ。一般にTOBの株価プレミアムは30%が相場とされており、それと比較してかなり高いと言える。

この発表を受け、株価は即座に反応、7月16日には高値で3570円を付けた。その後落ち着きを見せているが、7月18日時点での終値は3245円とTOB価格を上回る価格で推移している。

通常、TOB実施者による株式売却益を期待した株式の買いであれば、TOB価格を超えることはない。今回で言えば、3500円でユニゾ株を買えたとしても結局3100円で売ることになり、損してしまうからだ。つまり、現在の株価は今回の発表以外の思惑が働いているようにも見える。

HISが通例より高いプレミアムを掲げ、更に超える株価が現在付いている背景にあるのはユニゾの割安さだ。冒頭のファンド幹部は、「割安で放置されてきた上場企業に風穴を開ける、意義深いTOBだ」と解説する。

ユニゾの割安の訳は?

注目したいのは保有する不動産の価値だ。ユニゾはホテル事業以外にも不動産事業を行っており、中央区・千代田区・港区のオフィスビルを中心に70以上の物件を抱えている。2019年3月期における営業利益はホテル事業が約20億円なのに対して不動産事業が約164億円。つまり、ユニゾの主力事業は不動産事業と言える。都内の不動産価格上昇により、これら保有物件に多額の含み益が生じている。

19年3月末時点におけるユニゾの表面的な純資産は約1132億円。これにホテルや不動産の含み益が加わる。その金額は純資産の2倍近い2209億円にのぼり、含み益を加えた純資産は約3340億円まで膨らむ。実際には含み益を実現すると30%ほどの税金がかかるので、それも補正すると、1株あたりの実質純資産は7827円。TOB前6ヶ月平均株価は2002円なので、簡単に言うと7827円の資産価値のある銘柄がわずか2002円で取引されていたことになる。

この「含み益を加味した純資産に対する株価の比率」はNAV倍率と呼ばれ、REIT(不動産投資信託)をはじめ不動産を扱う投資商品で広く使われる指標だ。国内REITでは1.3ほどが平均で、1倍割れなら安いとされる。上場不動産株はそれよりも若干低いが、三菱不動産三井不動産など大手で0.6~0.7倍程度の水準となっている。

それに対して、TOB発表前におけるユニゾのNAV倍率は約0.25倍。業界内でも突出して低かった。TOB価格3100円でようやく0.4倍まで高まるが、それでも業界大手に及ばない。

つまり、ユニゾ株はこれまで割安で放置されてきた。その要因は頻発する公募増資による株式の希薄化を懸念したためと思われる。実際、ユニゾは2013年以降、ほぼ毎年のように公募増資を実施し、13年3月末時点で1653万株だった発行済株式数は19年3月末には3422万株へと、倍以上に増えた。

増資をすれば必ず株価が下落するというわけではない。だが、ユニゾにおいては下落要因として働いたとみられる。株価の下落ぶりは株価チャートを見ると明らかだ(図1)。ユニゾの営業利益は13年3月期約49億円から19年3月期に約176億円まで拡大したにもかかわらず、株価は16年に6060円を付けて以降右肩下がりだった。

頻発する増資は株価の押し下げ以外にも重要な影響をもたらした。株式の希薄化だ。ユニゾは日本興業銀行(現みずほ銀行)系列で知られており、大株主も関係先と思われる固定株主が占めていた。2013年3月末時点では共立の8.92%を筆頭に、上位10名で55.14%固めていた。だが、増資で発行済株式数が倍増するに伴って株主が希薄化。19年3月末には1位のHISを除く上位9名でも30%を切るようになっている。

上位株主を関係性の深い株主で固めていれば敵対的TOBを起こされても一致団結して対抗することが可能だが、分散してしまうとそれが難しくなる。つまり、公募増資は株価下落と株式分散の2つの意味でHISに付け入るスキを作ったと考えられる。

HIS社長澤田秀雄氏のTOB劇

今回のTOBを仕掛けたのはHIS社長の澤田秀雄氏だが、実は澤田氏は今年起きた別の異例TOB劇にも登場している。19年初に話題となった、中堅出版社である廣済堂のMBO(経営者による企業買収)だ。このMBOでは当時の廣済堂社長、土井常由氏が大手PEファンドのベインキャピタルと組んでTOBによる非上場化を目指した。それに待ったをかけたのが、村上世彰氏が率いる投資会社レノだ。

レノは「ベインキャピタルによるTOB価格算定が火葬事業を行う廣済堂の子会社、東京博善の価値を十分に織り込んでおらず、不当に安い」と主張。それを上回る価格でTOBを実施。異例のTOB合戦が行われた。

その際、廣済堂の12%を保有する大株主として名を連ねていたのが、澤田氏が代表を務める持株会社の澤田ホールディングスだ。結局廣済堂ではベインキャピタル、レノのTOBはどちらも不成立で終わったが、それからしばらく経過した19年7月に入って澤田ホールディングスは相対取引で保有する廣済堂株308万株を約23億円で売却すると発表した。

売却先は不明だが、一株価格は約750円と、レノによるTOB価格と同一。この取引で澤田ホールディングスは約18億円の売却益を得た。ユニゾ廣済堂では業種も登場企業も違うが、澤田氏率いる会社が優良資産を抱える低位株を保有し、仕掛けていく点は似通っている。

そして、廣済堂ユニゾの類似点がもう一つある。TOB発表後の株価がTOB株価を上回って推移している点だ。廣済堂の場合も、ベインキャピタルの当初TOB価格610円を大きく上回る株価が続き、その数日後にレノの大量保有が明らかになった。

足元のユニゾ株価は若干落ち着きつつあるが、それでもTOB価格よりも高い。ユニゾの割安感を勘案すると、廣済堂にレノが登場したのと同じように“第三者”が登場する可能性がある。ユニゾ側が仲裁役になるような企業を探し、そこに株を買い取ってもらうことも今後の展開としてありうるだろう。

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