”クーデター”劇的決着、創業家潮田氏が去ったLIXILでこれから起こる地殻変動 | QuestHub Insights

”クーデター”劇的決着、創業家潮田氏が去ったLIXILでこれから起こる地殻変動

 6月26日に開かれたLIXILグループ(以下LIXIL)の株主総会では、大方の予想を裏切って会社側の提案が棄却され元CEOの瀬戸欣也氏が代表取締役CEOとして復帰することが決まった。同社を巡ってはLIXILの前CEOであり、LIXILの母体の1つ旧トステムの創業家である潮田洋一郎氏によって18年10月に瀬戸氏が実質的に解任されて以降、そのプロセスについてブラックロックポーラー・キャピタルなどの機関投資家が疑義を呈していた。
そうした動きにトステムと並ぶLIXILの母体の1つである旧INAXの創業家・伊奈家が呼応。新CEOとして瀬戸氏を擁立し、機関投資家-伊奈家-瀬戸元CEOというラインが潮田支配への対抗馬となって政権交代を実現させた。
そんなドラマチックな展開を見せたLIXIL。水回りや窓わく、サッシ、建材、ホームセンターなど住関連の様々な事業のコングロマリットとして売上高1.8兆円を誇る同社の今後はどうなるのか。財務諸表の分析を通じて、投資家の思惑が透けて見えてくる。
(QuestHub Insights編集長 大熊将八)

そもそもLIXILは、01年にトステムにINAXがグループ入りしてできたINAXトステム・ホールディングス(後に住生活グループに改称)を前身とする。10年にはサンウエーブ工業株式会社、新日軽株式会社を子会社化し、2011年にはこれに東洋エクステリアを加えた5社の統合が実現して現在のLIXILが誕生した。

住生活グループ時代の07年までトステム創業者の潮田健次郎氏が会長兼CEOを務め、07年にが息子の潮田洋一郎氏に会長兼CEOの座を禅譲。世襲を完成させた。それ以来今年4月に辞任するまでの間、潮田氏が会長の座に座ってきた。LIXILトステムの世襲で運営されてきた会社というわけだ。

しかし同社の現在の財務諸表を読むと、ある“ねじれ”現象に目が行く。


出所:LIXILの2019年3月期有価証券報告書より抜粋

LIXILは「ウォーターテクノロジー事業」(LWT)「ハウジングテクノロジー事業」(LHT)「ビルディングテクノロジー事業」(LBT)「流通・小売り事業」「住宅・サービス事業」の5つの事業セグメントで構成される。中でも規模が大きいのが、2019年3月期で売上8127億円・セグメント利益602億円を稼ぐ、トイレタリーなど水回りのサービスを提供する「ウォーターテクノロジー」(LWT)事業と、売上5324億円・セグメント利益207億円を稼ぐ、窓わくやサッシなどを手がける「ハウジングテクノロジー事業」(LHT)だ。

LWTの母体はINAXであり、LHTの母体はトステム。すなわち、現在では旧INAXの方が潮田氏の出身である旧トステムよりも遥かに高い収益性を誇るのだ。

LWTのセグメント売上高と利益は、直接の競合であるTOTOの2019年3月期における売上高5860億円、営業利益401億円をも上回る。しかし、株式市場の評価は真逆だ。LIXIL全体の時価総額は5411億円(株式総会前は4600億円前後で推移。数字は記事執筆時点) と、TOTOの7362億円を大きく下回る。単純に考えると、投資家はLIXILの中のLWT以外の部分についてマイナスの評価を下していることになる。

この現象は、一言で言えば「非効率なグループ経営」によるものと言える。グループ全体の営業利益を見れば一目瞭然。TOTOは前述したとおり401億円を稼いでいるのに対し、LIXILは150億円の赤字に沈んでいる。

LIXILのグループ経営には「分かりやすい問題」と「分かりにくい問題」がある。「分かりやすい問題」は海外買収の失敗だ。11年に約600億円で買収したイタリアのペルマスティリーザ社は19年3月期に639億円もの営業赤字を計上している。これが、LBTを赤字にしている原因だ。LWTが利益を稼いでも、赤字事業が食いつぶしては意味がない。

それに対するLIXILの「分かりにくい問題」とは、巨額の「調整額」だ。

上の画像はLIXILの19年3月期における有価証券報告書から抜粋したものだ。表の左行を見ると、伊ペルマスティリーザ社の含まれるなどの損失を加味してもLIXILは各セグメント合計で540億円の利益を稼ぎ出していることがわかる。ところが、表右行の連結全体で見たセグメント利益は127億円と大きく減額されている。

なぜ差がついたのか。その答えが「調整額」にある。調整額とは、主にグループ全体の管理に使われる人件費や経費などセグメントに分配できない費用のこと。LIXILの調整額は実に412億円。これによって利益の大半が削られている。ちなみに、TOTOが今期計上している調整額は36億円と、LIXILの10分の1以下だ。

LIXILの「調整額」は過去5年間

2015年3月期 248億円
2016年3月期 298億円
2017年3月期 358億円
2018年3月期 393億円
2019年3月期 412億円

 と増加の一途をたどっている。その要因として考えられるのが①「ITシステムの償却費」②「全社部門の人件費」③「本社部門の家賃や全社向けの広告宣伝費」の3つだ。

①の「ITシステムの償却費」に関しては、確かにグループの統合を進めるためにITの基幹システムの統一に投資が行われており、年間100億円以上の費用が発生している。これは今後も増える見込みだが、このうち調整額として計上される「ソフトウェア償却費」は80億円程度にとどまる。

出所:LIXILの2018年3月期決算説明会資料より抜粋

②の経理や総務などを行う「全社の経理・総務部門のコスト」については、社員数は1060人なので、給料ほか交通費などまで含めた1人当たり人件費を1000万円としても100億円程度にとどまる。

出所:LIXILの2019年3月期有価証券報告書より抜粋

③のLIXIL全体で賃借料は349億円、広告宣伝費で464億円計上している。LIXILは全社部門の家賃や広告宣伝費の金額を開示していないが、6万人を超える従業員に対して全社部門の社員は1060人と、2%にも満たないことを考えると、家賃に関しては多く見積もっても5%程度、すなわち20億円程度だろう。

広告宣伝費に関しては、「トステム」や「INAX」ではなく「LIXIL」をブランドとして打ち出していく一貫でCMを展開しているが、基本的には製品ごとのPRが中心だ。全社に配賦されるのはせいぜい1割の50億円程度ではないだろうか。


出所:LIXILの2019年3月期有価証券報告書より抜粋

これらをすべて合計しても250億円程度であり、実際の調整額である410億円には大きく及ばない。具体的にどの部分のコストが肥大化しているかは不明だが、どのコストであっても結局のところグループ経営の維持に関わるものという点は変わらない。約300社の子会社で構成される巨大で複雑なグループの経営を管理すること自体がLIXILの経営を圧迫していることは間違いないだろう。

一般に、事業の選択と集中を進め、非効率を解消すべしとの主張はとりわけ海外の機関投資家から強まっている。直近では米国のアクティビストファンドであるサードポイントソニーに対して半導体事業を切り離すべきだ主張している。日本企業側も、例えば日立が上場子会社のクラリオンを売却するなど、選択と集中を進める動きが見られる。

今回、創業家である潮田家の支配から解き放たれたLIXILは、機関投資家の関心の的となるだろう。トステム系の事業は現在でも付加価値が低く利益を上げにくい上に、住宅市況の変化の影響をモロに受けやすい。一方の水回りは高い営業利益率を実現しやすく、東南アジア諸国へのさらなる導入など、拡大余地も大きい。

瀬戸氏は「今日からワンリクシル」とグループ内の融和を強調しているが、機関投資家-瀬戸-伊奈家というラインの下で、LIXILグループ事業の整理・売却を進め、それに伴い全社の管理体制もスリム化されれば、グループ全体の企業価値は大きく上昇する可能性がある。

もともと、潮田氏の指示のもとで前任者の藤森義明氏が進めた海外買収の失敗の後始末をしていたのが瀬戸氏だ。瀬戸氏はペルマスティリーザの売却を進めようしたところ潮田氏から梯子を外され、解任されたと言われている。

機関投資家が束になり、問題行動を起こした創業者を追い出すという「あるべきガバナンス」が働き、日本企業のコーポレートガバナンスの転換点になると言われている今回の事件。次は、あるべき事業体に向けて動きだす番だ。

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コメント

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    • ななな
    • 2019年 6月 29日

    拝見しました。
    数字と言う客観的な物指しからの記事なので(どこぞの様な感情的な記事出ない)
    ご存じの事かも知れませんか、以下コメントします。
    ① 統合前トステムはキッチンとバス、洗面をそれなりに扱っていた。 ② キッチンはサンウェーブが多かった。INAXももちろんあつかってはいたが。
    ③ 依って、現在のウォーターは 、統合前の3社を引き継いでいる
    ④ サッシ扱い先に対して、サッシ値引きで他のものを売り込む戦略もなど、国内は縦割り(カテゴリー)が本来の実力地とは言え無い
    以上
    ※こちらのコメントが客観的な数値でなくてすいません。それこそ思い込みあるかもしれませんので、調べてもらえると幸いです。

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