10年以上の「超長期投資」にだけ見える世界とは?(守屋秀裕氏) | QuestHub Insights

10年以上の「超長期投資」にだけ見える世界とは?(守屋秀裕氏)

一口に”株式投資”といっても様々なスタイルがある。特に特徴が出るのが継続保有期間。1年以上かけてじっくりと付き合う投資手法もあれば、1ミリ秒単位で取引を行うHFT(高頻度取引)というやり方まである。機関投資家の保有期間は意外と短く、1年あれば”長期投資”と言われる。四半期決算や年間決算で成果が図られ、投資家としての浮沈が決まるからだ。

そんななか、シンガポールに拠点を置く「R Financial Investment」というファンドは10年以上の時間軸で投資する”超長期投資”を実施している。通常のファンドと比較して気の遠くなるような期間だが、なぜそのようなスタイルを取っていてどのような醍醐味があるのか。代表の守屋秀裕氏に解説してもらった。


(写真はイメージ)

初めまして。私はシンガポールで小さな投資会社を経営しています。上場企業株式投資に関わっている期間は約13年で、近年はとりわけ、10年かけて10倍になる企業へ投資する「超長期投資家」を志しています。

今回は上場株式への長期投資に関する論考を通じて、当たり前だと思われていることや一般的な考え方についてより掘り下げてみたり違った角度やより広い枠組みで捉えることで、役に立つ考え方や気づきが生まれるきっかけとなれるよう努力したいと思っています。

早速ですが長期投資には以下の3つのメリットがあると考えます。

1.夜ぐっすり眠れる(体にプラス)
2.利益をしっかり出し得る(財布にプラス)
3.上達する過程で世の中や人生について新たに知る機会になる(学びにプラス)

わずかな優位性を活かそうと先を争うような投資手法はいつも緊張を強いられることになりやすいです。

そのため例えばトレーダーは狩りをしているような緊張感からくるストレスが大きく、体調不良や抜け毛といった症状も起こることがあります。私自身も短期的な視点で投資をしていた時は、歯医者で
「奥歯がすり減っていて、ひびも入っています。なにか力が入るような仕事をしていますか?」
と言われたことがあります。

それに対して長期投資はより農耕的な行為で、そう言った局面の頻度と度合いは少なくて済むはずです。

これは私見ですが、世界最大の投資持株会社であるバークシャー・ハサウェイの筆頭株主であり同社の会長兼CEOウォーレン・バフェットさんが現在もはつらつとしているのは長期投資を実践していることと関係があると思っています。

また、株式への長期投資は容易に変わらない市場の特性を利用して利益を生むことができる優位性のある方法です。

最後に副次的効果として、長期投資を実践しようとすると、別の企業や業界を超えて幅広い要素を取り込む必要に気が付かされます。それによって、今まで気にかけていなかったことに興味が湧いたり、新たな考え方や価値観に触れたりすることで多くの学びを得られる可能性があります。

長期投資って何だ?

では長期投資とは具体的にどういう投資ですか、と聞かれたらどのように答えるでしょうか?
実は長期投資の定義について、日本で広く合意されたものは無さそうです。

ただ、2014年8月に公表されたいわゆる伊藤レポート(企業が投資家との対話を通じて持続的成長に向けた資金を獲得し、企業価値を高めていくための課題分析・提言を行った最終報告書)には、

「投資家や市場関係者からは、長期投資とは長期的な視点で企業価値を評価して投資を行うことであり、保有期間が短いことが必ずしも短期志向を意味しないとの認識が示されている」

とたった一文ですが、重要なことが書かれています。

企業の価値算定では何が大事なの?

「企業価値を評価して投資する」、ための最初のステップは、企業価値の評価・計算です。この計算には、一般的に合意された考え方があります。

企業が生み出す将来のキャッシュフロー(≒利益)を現時点の価値に換算して、それに現在の保有純現金(現金から有利子負債を差し引いた額)を足したものが企業の価値であるというものです。


(編集部作成)

イメージをつかむために将来にわたって純利益=キャッシュフローを毎年1億円生む会社を考えます(現在の純現金はゼロ)。

一定の前提を置いてこの企業の価値を計算すると12.5億円になります。ではこの12.5億円のうち、3年目までに生まれる純利益の合計が占める割合がどの程度かというと約2割です。
5年目までだと約3割、10年目までだと約5割になります。

逆に言うともし11年目以降純利益がゼロになってしまうのであれば、この会社の価値は約半分になってしまうことになります。つまり、目先の利益だけでなく、10年、20年といったかなり先の利益も重要であるということです。


(編集部作成)

しかし上場企業の業績については、見通しの立ちやすい目先の2-3年については多くのアナリストがなるべく正確な予想を立てようと努力しています。

一方でその先についてはそれまでの傾向を踏まえてなんとなく計算する、というのが主流ではないかと思います。

先ほどの計算だと3年目までの利益が価値全体に占める割合は約3割です。つまり3割については多くの努力を費やす一方で、より大きな残りの7割についてはある意味諦めから「えいや」になってしまっている、というのが株式市場における企業価値評価の現状ではないかと思います。

「長期的な視点で企業価値を評価」というのとはギャップがありそうです。

実際問題、企業の10年後、20年後を高い精度で予想するのは非常に困難です。

私はそれを前提として受け入れることから始まると思っています。

そしてその前提の下でも、10年後、20年後でも事業基盤が揺るがず、利益を拡大し続けているだろうと予想できるごく一部の会社だけに投資対象を絞って分析時間と投資資金を向けます。

短期だけ見ていては分からない、長期について考えるからこそ見えてくる企業の強み、事業機会、成長限界、リスクといったものがあるため、このような選別が可能になります。

なぜ長期投資だとぐっすり眠れるのか

株式に投資をしていて最もストレスを感じるのは、その企業の事業が顧客ニーズの変化、革新的な技術の普及、強力な競合の参入といった非一時的要因で変調をきたし、回復が見込みにくくなる場合です。

このような状況では、市場参加者が考えるその企業の価値は引き下げられ、株価も大きく下落します。

加えて、企業価値とは関係のないランダムなもの(ボラティリティ)を分けて捉えることができれば刻一刻起こる株価変動を追いかけたり、一喜一憂しなくて済み、日々のストレスを軽減する効果に繋がります。

信じることは簡単ではない

しかし、言うは易く行うは難しで、 私自身も大きなリターンを逃した経験が何度もあります。その中でも記憶に残っているのが、某コスメ関連の口コミサイトを中心とするサービスを展開されている企業です。

私が最初に投資をしたのは2013年中頃になります。投資した当初に考えていたのは、コスメ関連の情報源としては圧倒的なユーザーを抱えている同社は、今後化粧品メーカーの広告費がインターネット広告にシフトしてくるとすると大きな恩恵を受けるはず、ということでした。
自分はインターネット広告業界や化粧品業界に詳しくないと分かっていたのですが、妻を含む何人かに聞いたところ、全員が同社のサイトを参考にしているという回答が返ってきました。

そして、見た目のバリュエーションは高いけれども時価総額には大きな成長が織り込まれているわけではなかったこともあり、投資を始めました。

その後2014年に大きな下方修正が発表され、株価は3割程度下落しました。

要因はPCからスマホへの移行期で収益に影響が出たことなど、いくつかありました。その株価下落を見て、私の自信は揺らぎ株式を売却しました。

そしてその後、同社の売上・利益は私の当初予想を上回って拡大し、株価は2年で投資開始時点と比べて6倍以上になりました。大失敗です。

当時の私には長期投資家に必要な、自覚、調査努力、同社・業界・ユーザー等に対する基礎的理解、精神力、何もかもが中途半端でした。何度もIRミーティングで丁寧に説明していただいた会社の方には今でも申し訳なかったと思っています。

長期投資を通じた新たな学び

最後に長期投資の副次的効果である新たな学びについて紹介します。

人生100年時代になり学び続けることに注目が集まっています。長期投資はこうした学びを行う非常に良いきっかけをくれると思っています。

先ほども少し触れたようにある企業の10年、20年後の姿を予想する上では様々な要素を取り入れる必要があります。

例えば、いわゆる上場ゴールにみえる経営者と上場後も成長し続ける経営者がいるなと思ったら、その人たちのインタビューを読んで何が違うのかを考えてみる。

例えば顧客心理を巧みについて高い利益率を生み出している企業を見たら、実際にユーザーになって体験してみる。例えば社員を消耗させる企業と社員をエンパワーする企業があると思ったら、人事責任者のインタビューや採用ページを読んでみる。

このように「企業を見て気になる=>身近なもので調べる=>もっと知りたくなる=>詳しく学ぶ」というステップを踏むと、大上段から何かを学ぼうとするよりもずっと自然にできると思うのです。幅広い学びを通じて喜びを感じながら、金銭的なリターンも得られる長期投資の道に一人でも多くの人が進んで欲しいと願っています。

守屋 秀裕(もりや・ひでひろ)
「社会の発展に寄与する上場株式投資を実践し続ける」をミッションに、「社会と多様な繋がりを持ち、関わるメンバーがイキイキ活躍するアジアの上場株式投資会社」をビジョンに掲げるシンガポールの投資会社R Financial Investmentの最高経営責任者(CEO)。同社参画前はスパークス・アセット・マネジメントに約9年間在籍し、主に中小型株ファンドにてアナリスト及びファンドマネジャーとして従事。それ以前はモルガン・スタンレー証券で約5年間投資銀行業務に携わった。

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