「機関投資家が連帯すれば、企業の持ち合いは解消できる」ニコラス・ベネシュ氏 | QuestHub Insights

「機関投資家が連帯すれば、企業の持ち合いは解消できる」ニコラス・ベネシュ氏

今からちょうど1週間前、日本のコーポレート・ガバナンスに新たな歴史が刻まれた。LIXILの株主総会において、世界最大の資産運用会社である米ブラックロックや、英国の投資会社マラソンアセットマネジメントら機関投資家の支持を得たLIXILの前CEO瀬戸欣也氏が、創業家でCEOであった潮田洋一郎氏を追い出すことに成功したのだ。このように機関投資家が連帯すれば、企業を大きく動かすことは難しくない。
昨今、企業の株式持ち合い解消についても市場からの圧力が強まっているが、一部の企業は未だ門戸を閉ざしている。しかし、機関投資家が足並みを合わせればそんな企業も変えられるかもしれない。
(2010年に金融庁の「コーポレート・ガバナンス連絡会議」のメンバーを務めた公益社団法人、会社役員育成機構の代表理事ニコラス・ベネシュ氏に寄稿頂いた)

(筆者:ニコラス・ベネシュ 翻訳:市川佐知子)


会社役員育成機構のニコラス・ベネシュ代表理事)

「忠臣株主」問題

最近の改革で改善したとはいえ、企業の株式持ち合いは依然日本市場の大きな問題だ。株価連動インセンティブの小さい経営陣や社外取締役は、めまぐるしい市場経済の変化の中で現状維持に甘んじ、ビジネスリスクをとって収益性を追求する戦略を練らず、経営陣のイエスマンである「忠臣株主」は何も言わない、そしてこれらの経営陣や社外取締役は再任を重ねる、という悪循環が続いている。企業のことを真剣に考える株主の諫言は大きくなりつつあるが、忠臣株主のイエスの大コーラスの前に、かき消されてしまう。

金融庁の「コーポレート・ガバナンス改革の進捗状況」(2017年)によると、「株主総会決議で会社側提案を支持することが期待できる株主が保有する議決権数の総議決権数に対する比率」について、30-60%と考える上場企業は、3分の2以上に上る。

このような「安定株主」は、「政策保有」によって他社における資本配分を歪めて、経営を実はリスクにさらしてしまう。パナソニックの創業者である松下幸之助は、1967年、当時台頭しつつあった「安定化」のための株式持合いについて、単刀直入に次のように語った。「しかし、こういう状態のままでは、資本が一部に偏在してしまうという姿が再びわが国に生まれてくるおそれもあるので、決して望ましいことではないと思う。私はこれは、資本主義の進歩している姿ではなく、むしろ退歩している姿だとも考えられると思うのである。」

しかし、状況は変化しつつある。2019年以降、機関投資家に与えられた手段で、その発言力は大きくなっていくだろう。つまり、コーポレートガバナンス・コードとスチュワードシップ・コードだ。

コーポレートガバナンス・コードは昨年6月に改訂され、政策保有株式を縮減する方針について開示すること、また個々の保有株に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査することを取締役会に求める。投資家はこのコード原則を拠り所に、企業の経営陣に対し、種々の質問をすることができるし、返答次第では不満足であると意思表示することもできる。また2017年に改訂されたスチュワードシップ・コードは、投資家同士がエンゲージメントや議決権行使方針について協議・協働する、「集団的行動」を支持している。

金融庁は2014年に、「共同保有者」として大量保有報告書を提出する必要がない集団的行動を定めた「日本版スチュワードシップ・コードの策定を踏まえた 法的論点に係る考え方の整理」を公表したが、多くの投資家が集団的エンゲージメントに踏み切らなかったのは、投資家同士がそれぞれの見解を話し合うことは「重要提案行動」には当たらないという、明確なセーフハーバーがないと感じたからだ。

ある企業について意見を交換しただけで、「共同して議決権を行使することを合意した場合」に当たるとして、保有分を合算させられ、大量保有報告書を提出すべき5%基準を超えるか、考えなければならない事態に至ることを、投資家は懸念する。合算が必要だとなれば、大規模な投資家が提出しなければならない報告書は大変な数になるだろう。この点が争点になった事件は未だ無いし、機関投資家は自分が第一号案件にはなりたくないと考えるのが普通だ。

忠臣株主にどう立ち向かうか

しかし、内外の機関投資家は、改訂された2つのコードをうまく使った以下のようなアプローチで、忠臣株主の分厚い防衛ラインを突破することができる。

アセットマネージャーが小さなグループを作り、「忠臣株主」にどう立ち向かうか議論する。合意するのはごく一般的な原則だけにする。つまり、政策保有株式合計額が純資産マイナス現預金の25%を超えた場合は、社長と会長(日本ではこの2ポストが最重要であり効果的だ)の再任に反対する、という原則だ。東京証券取引所の第1部に上場する企業の20%がこの原則の対象になる。つまり現状では、東証一部上場企業の20%の企業の資本の25%が、コアビジネスには投資されず、政策的に株式投資に回されており、株式市場のボラティリティが企業価値を振り回している。日本が目指す資本の効率的配分を妨げているのは、そのような政策投資を行う企業だ。私が資本金の大きな企業について分析したところ、他の条件が同じならば、政策保有株式の割合が大きい企業の利益性は小さくなるという傾向が、統計的な有意性をもって現れるという結果が出ている。

投資家グループは共同報告書を公表し、このような議決権行使が日本になぜ必要か説明し、他の投資家にも同調行動を促し、猶予期間例えば18ヶ月を設定した後に、議決権行使に踏み切るよう訴える。このような議決権行使はスチュワードとしての責務を果たすためのものであること、「忠臣株主」が実は企業の資源を誤用しており日本の資本市場を歪めていることを、報告書に盛り込むことが肝要だ。

特定個別銘柄について同じ議決権行使方針で臨むことを合意するのではなく、一般的な方針としての合意であることを報告書で明確にする必要がある。そもそもこのグループに属する個々の投資家の投資先企業は様々であるから、合意も特定銘柄を想定して行うものではない。このため、2014年金融庁の「考え方の整理」が許容する集団的エンゲージメントの範囲内に収まり、「共有保有者」を構成しないことについて、弁護士意見を取得済みであることも、報告書に盛り込むことが必要だ。

このような投資家グループとその議決権行使方針は、広く報道され、賛同者が加わって、グループのリストは次第に長くなっていく。

年金ファンドのようなアセットオーナーや個人投資家といった、アセットマネージャーの受益者にとって、このリストはリトマス試験紙となり、アセットマネージャーが忠臣株主問題に取り組み、真剣に受益者のために働いているのか、明らかにしてくれるだろう。

忠臣株主問題は、日本企業がその真の力を発揮するために必要な、コーポレート・ガバナンス改革を妨げる大きな障害になっている。少しずつ改革が進んだ今、資本市場にとってこれが一番の障害だ。しかし、機関投資家が上述したような方法で結束すれば、この大問題も数年のうちに解消するだろう。

多勢に無勢ではないか。忠臣株主があまりに多すぎ、効果がないのでは、と心配する向きもあるだろう。しかし、日本の経営陣は再任議案に対する低支持率にとても敏感だ。投資家が議決権行使の意思をしっかり伝えれば、経営陣を解任するに至る前に、経営陣はメッセージをしっかり受け止め、正しく対処するだろう。

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    • 市川佐知子
    • 2019年 7月 08日

    2017年5月のスチュワードシップコード改訂で、指針4-4で、「他の機関投資家と協働して対話を行うこと(集団的エンゲージメント)が有益な場合もあり得る。」と規定された。しかし、何がどこまでできるのかが明らかでないため、投資家は動きが取りづらい。いずれはガイドラインが策定されるだろうが、ベネシュ氏のような有識者の意見を踏まえた、社会におけるコンセンサス作りの動きが、ガイドラインを形作っていくことになるだろう。

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