「N国」はなぜ議席を獲得したのか?その戦略を探る 本命は衆院選か | QuestHub Insights

「N国」はなぜ議席を獲得したのか?その戦略を探る 本命は衆院選か

7月の参議院選挙で1議席を獲得した「NHKから国民を守る党(N国)」。幸福実現党などこれまでほかの泡沫政党(国政政党の要件を満たさずとも確認団体とされる組織も含んでいる)が達成できなかったことを彼らは設立からわずか6年で成し遂げた。

最近は日本維新の会に所属していた丸山穂高・衆議院議員を入党させ、みんなの党との共通会派を結成。他にも、パワハラ問題で自民党から除名処分を求められている自民党の石崎徹議員や無所属議員に声をかけ、「同志」を増やそうとしている。彼らはいかにして議席を獲得したのか。なぜ丸山議員らを勧誘しているのか。その戦略を探った。
(弁護士 徐 東輝(とんふぃ)


(「NHKから国民を守る党」公式WEBサイトより)

「ワン・イシュー」で成功

N国がとった戦略のなかで最もわかりやすいのは選挙において1つのテーマについてのイエスかノーかだけを有権者に問う「ワン・イシュー戦略」だ。彼らは「NHKをぶっ壊す」ことを掲げ、NHKに受信料を払っている人だけが番組を見られるようにする「スクランブル化」の実現を訴えた。


(立花孝志議員の公式YouTubeより)

同党の立花孝志代表は当選後も、NHKのスクランブル化のためなら改憲も賛同する意思を見せ、その他の論点においては支援者の多数決によって決定する「直接民主主義」の姿勢を徹底している。N国は国政には興味がなくとも、あるいは国政で投票したい先がなくとも、NHKに対する不満がある有権者の受け皿になった。

ワン・イシュー戦略で近年最も成功した例として挙げられるのは、2005年の小泉純一郎首相(当時)による「郵政民営化」の是非を問う衆議院の解散総選挙だろう。小泉元首相は05年8月、小泉内閣として参議院本会議に提出した郵政民営化関連法案が否決されたことを受け、衆議院を解散した。結果は、自民党が296議席を獲得し圧勝。特筆すべき点は、都市部で弱いと言われた自民党が、東京・神奈川・大阪といった大都市でも圧勝したことだ。メディアを利用して郵政民営化への有権者の関心を高め、その一つの問題の是非でそれまで弱いとされてきた地域でも票を集めた。

09年に民主党が政権を奪取した際には、民主党は「脱官僚依存」や「新しい公共」といった自民党と異なる政策を掲げたが、選挙戦では「政権交代」というキャッチフレーズを強調。「現政権か新政権か」というワン・イシューに争点を集中させ、308議席を獲得。見事政権奪取に成功した。

国政選挙よりもワン・イシューになる傾向にあるのは地方選挙だ。直近では大阪維新の会が大阪府と大阪市の行政を一本化する大阪都構想の是非を有権者に問い、目論見通り府知事と市長が入れ替わる勝利を収めた。維新が併せて再編を狙う堺市でも市長選で維新が擁立した候補者が当選するなど勢いに乗る。このように有権者から支持を集めやすい1つのテーマを掲げて臨むことが、選挙戦の一つの「勝利の方程式」になりつつある。

ただ、一般的にワン・イシュー戦略を実現するのは難しい。

今回の参議院選挙ではN国以外にワン・イシュー戦略をとった政党は「安楽死制度を考える会」など泡沫政党以外にはなかった(「安楽死制度を考える会」とは、「支持政党なし」代表の佐野秀光氏が代表を務める確認団体である)。


(「安楽死制度を考える会」公式WEBサイトより)

抽象的なスローガンではなく、具体的な1つの論点のみを命題とした戦略は既存の政党にはとりにくい 。ワン・イシューにしてしまうとどうしても政策の取りこぼしが出てしまい、政権担当能力が疑われるからだ。

例えば、ある野党が「憲法改正反対」のワン・イシューで選挙に臨むと、熱心に政策集を読む有権者や支持者以外は、「与党が打ち出している経済政策に対抗する政策はないのか」、「この党は社会保障に関する政策をどうかんがえているのかわからない」と考えてしまう可能性がある。

さらに、今回の選挙は3年に1度の参院選で、解散総選挙のように何か政局や法案の否決などがあった訳ではないので「ちょうどいい」ワン・イシューがなかったというのもある。

一般的にワン・イシュー戦略が成功するのは自民党などの政権与党や、09年の政権交代直前の民主党のような野党第一党の大きな政党がイシューを掲げた場合であり、泡沫候補では難しい。議席数が少なくメディアへの露出があまり無い政党の場合には、そもそもイシューを掲げても世間に注目されないからだ。例えば、NHKは「5人以上の所属国会議員がいる」かつ「得票率2%以上」という出演条件を掲げている。N国のような「泡沫政党」は自民党などの巨大政党に比べて大きなハンデを負っている。

過激な政見放送とYouTubeで露出に成功

「NHKをぶっ壊す!」「不倫ですよ!路上ですよ!カーセックスですよ!」

立花代表や同党の候補者は、型破りな選挙演説や「NHKをぶっ壊す!」などの印象的なフレーズをNHKの政見放送で繰り返すことで、ネット上で注目を集めることに成功。同じくYouTube上でも過激な発言を連発し、ネット民を始めとするシニカルな層にアプローチして、露出を増やした。

しかし、このようなYouTubeなどのインターネットを活用した選挙戦略は他の勢力もとっており、それほど目新しいものではなかった。

例えば、起業家として知られる家入一真氏は14年の東京都知事選に立候補し、ネット演説やSNSを利用して政策を公募するなどインターネットを活用。都知事選の供託金もクラウドファンディングで集めた。ネットを利用する若年層を中心に支持を集めたが、16人中5位で落選する結果となった。

地方選挙で「足場固め」

では、N国が頭一つ抜きんでたのはなぜなのか。それは、「足場固め」が出来ていたからである。同党は2019年の統一地方選挙で47人が立候補し、26人が議席を獲得していた。特に、東京23区に限れば20人中17人が当選しており、すでに得ていた議席と合わせて23区中19区に議席を確保することができた。地方選挙は競争率が低いため、非常に当選しやすい。15年に行われた第18回統一地方選挙では、市議選の平均倍率はたったの1.22倍であった。

地方を攻めた狙いは、国政に出るための資金稼ぎだ。地方議員一人につき130万円を今回納めさせているという(政党交付金で返済予定)。このお金は、供託金に使われた。参院比例区に出るためには10人以上の候補者を擁立し、1人当り300万円の供託金で3000万円が必要となる。

立花代表は、この厳しい条件を10日ほどで人と資金をかき集めてクリアしたという。この驚くべきことを成し遂げた手段が、同氏の最大の武器であるYouTubeだ。候補者一人一人の経歴を問うことは無く、YouTubeや電話を利用して立候補してくれる人を探した。例えば、同党の佐藤恵理子氏はもともと「えびぴらふ」の名前でニコニコ動画で活動しており、配信番組を通じて立花代表と知り合ったという。

佐藤氏は声優としても活動経験があり、政見放送ではその容姿と声で話題を集めた。佐藤氏のようなユニークな人材で党の知名度が上がった一方、このような手当たり次第の勧誘が裏目となり、中には当選後に問題となり党除名になる議員も出た。また、金銭面でも同様に、YouTubeを活用して「立候補と資金提供をしてくれる人」と「資金提供のみしてくれる人」を募った。立花代表は、7月1日に公開した自身のYouTubeの中で、「立花と党は最終的に1億800万円、個人的に出す人が2700万円、合計で1億3500万円」が集まったと述べている。また、7月21日に放送された「abema選挙SP」では、「必要な1億5000万円のうち、1億円はYouTubeで貸していただいた」と明かしている。

比例代表制の特徴を活かした作戦

また、N国は最初から比例狙いであった。そもそも、比例代表制はどのような仕組みで、どのような特徴があるのだろうか。

比例代表制では、各政党が獲得した得票数に比例するように議席を配分する。日本では、各政党の得票数を、1,2,3、…と自然数で割っていき、その商が大きい順に当選する仕組みをとっている(ドント方式)。

例えば、3つの政党(A党、B党、C党)があり、それぞれの得票数が1200票、900票、300票だったとする。比例代表制で3人が当選するとき、割った数を比べると下図のようになり、A党から2人、B党から1人当選することになる。

この制度では全ての有権者の票が政党にまとめられるので、死票が少なく少数意見を反映しやすい一方で、小政党の乱立を招くというデメリットもある。

N国は比例のこのような特徴に目を付けた。同党は37人の候補者を選挙区に立てたが、全く当選の気配はなかった。N国は候補者を選挙区制で当選させることよりも、確実に議席を確保するため、比例票の獲得を狙ったのだ。そのためにはN国の知名度を上げる必要があり、候補者には党の売名行為が期待された。実際、政見放送のみでポスターなどを作っていない候補者も多いようだ。

N国のこれから

N国は先日の参院選で見事1議席を獲得したが、元々次の衆院選に照準を合わせており、議席を獲得することは直接の目的ではなかった。 政党要件の得票率2%を満たせば、政党交付金が手に入り、政党として活動できる。その結果、全国的に報道されてより知名度が上がり、党首討論にも呼ばれることになる。

同党は丸山議員を迎え入れるなどして耳目を集めているが、当分の目標は党所属の国会議員を5人以上集めることだ。なぜなら前述の通り、NHKの番組に出演する条件として、得票率2%以上」と「党所属国会議員が5人以上」の両方が求められるからだ。

立花代表は既に12人ほどに声をかけており、半分の6人からリアクションがあったという。政見放送で大暴れした同党であるが、NHKの番組でも場を引っ掻き回すのか、また、丸山議員の入党やみんなの党結成のように国会に大きな影響を与えるのか、これからの動向に目が離せない。

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