急成長「NewsPicks」擁するユーザベースが抱える「海外展開の死角」 | QuestHub Insights

急成長「NewsPicks」擁するユーザベースが抱える「海外展開の死角」


ホリエモン落合陽一ゆうこす(菅本裕子)、前田裕二(SHOWROOM社長)…。そんな今をときめく著名人たちの発信が日々更新される経済ニュースアプリ「NewsPicks(ニューズピックス)」。2013年にUzabase(ユーザベース)社が立ち上げたこのサービスは、14年にオリジナルコンテンツの配信を始めたことを背景に、着実にユーザー数を伸ばし続け、直近で400万人弱が無料会員に登録。月額1500円の有料会員にも約10万人が課金している。

このNewsPicksに、ユーザベースの創業時からの事業である企業財務情報分析サービス「SPEEDA(スピーダ)」を加えた2つの事業がユーザベースの主な収益源だ。SPEEDAは金融機関やコンサルティングファームなどを中心に人気を博している。

同社は08年の創業以来、リーマン・ショックも乗り越え着実に成長し、16年には東証マザーズに上場した。今やSPEEDAは10億円以上の利益を稼ぎ、NewsPicksも16年に黒字化を達成している。

そんな好調を背景に、一時は1000億円を超える時価総額で株式市場で評価されてきたユーザベースだが、「大きな爆弾」を抱えている。
(QuestHub Insights編集長 大熊将八)

純資産を上回る「のれん」

それは18年7月31日に買収した米国の経済ニュースサービス「Quartz(クオーツ)」を運営するQuartz社だ。Quartzは12年に設立されたばかりのウェブメディアであり、買収直前の17年度には2760万㌦(30億円)超の売上を上げていたものの、慢性的な赤字体質で買収直前の2017年度も810万㌦(8.9億円)もの赤字。


(同社の適時開示資料より)

そのQuartz社をユーザベースは8,600万㌦(約92.6億円)を投じて買収した。
その内訳のほとんどは「のれん」である。のれんとは、買収対象企業の純資産と買収額の差額である。つまり、買収対象企業のブランドや、将来生まれるキャッシュフローへの期待に対して支払われたプレミアムといえる。
5月14日の最新の決算におけるのれん総額90.6億円は、ユーザベースの純資産57.3億円をゆうに上回る。この買収に要する資金は主に借入によって調達され、ユーザベースの自己資本比率は17年度の41.1%から、直近の19年度第1四半期決算では26.4%と大幅に悪化した。

この借入金の返済のため、18年7月2日、ユーザベース社は第三者割当による新株予約権の発行を発表した。


(同社の適時開示資料より)

しかしこの調達は、株価が行使下限価格(3275円)を下回ると、行使が行われず資金調達が進まないというリスクを孕んでいる。実際、株価は昨年7月より下限行使価格をほぼ一貫して下回って推移している。

ユーザベースの株価の推移
TradingViewを用いて作成 (https://www.tradingview.com/x/Par2SAcf/

このような状況では、債務返済のための資金を調達することは難しい。

さらに、Quartz社の売上には疑義が存在する。同社の売上は第4四半期に集中しており、18年度第3四半期18年度第2四半期では3.23.7億円に過ぎなかったユーザベース社全体の売掛金が、18年度第4四半期には24.9億円と激増。会社側はこの売掛金の回収に自信を見せていたが、直近の19年度第1四半期決算においても約18億円の売掛金が滞留したままとなっている。
通常、メディア企業の売上は読者からの「課金」あるいは顧客からの「広告」から成り立つが、Quartz社は広告のクライアント企業に対してコンサルティングやリサーチを提供する「ソリューションビジネス」にも収益を依存していた。さらに、買収時の契約を読み解くと、18年度のQuartzの売上の大小で最終的な買収額が決定される「アーンアウト条項」が存在している。つまり、Quartz社には、買収してもらう額をなるべく引き上げるため、無茶な売上を立てるインセンティブが存在していたということになる。

Quartzのアプリを実際に使用してみると、NewsPicks同様に、専門家としてニュースを解説するプロピッカーが存在する。彼らのフォロワー数は、例えば、ロンドンに本拠を置く世界的なベンチャーキャピタルであるVirgin Groupの創業者であるRichard Bransonは16万1122フォロワーを19年6月8日時点で有するなど、NewsPicksのトップピッカーと比べても遜色がない。

一方、Quartzの記事のPick数では、同日の総合トップ“Trump says the US and Mexico have reached a deal to avoid tariffs”(「トランプ氏は、米国とメキシコは関税を避けるための取り決めに達したと発言」)(CNBC)でさえわずか22Picks。

NewsPicksの総合トップ「【解説】お金を生む力。アマゾンとZARAは『CCC』がすごい」(NewsPicks編集部)が592picksと、圧倒的に差がついている。恐らくQuartzは、多額の広告費を投じてダウンロード数を伸ばしているが、実際のアクティブユーザーの数はかなり限られているのではないだろうか。

実際、アクセス解析サイトSimilarwebのデータによればQuartzの月間ユニークユーザー数は昨年からやや逓減している。


(Similarwebより筆者作成)

また、Quartzが力を入れているアプリにおいても、App Storeのレビュー数で比較すると、今一つ伸び悩んでいるのがわかる。

もともとユーザベース社は、米Dow Jones(ダウ・ジョーンズ)社と50%ずつ出資し合弁で17年にNewsPicks USA社を立ち上げ、Dow Jonesのブランドを借りて米国でNewsPicksfを立ち上げようとしたが、米国ではNewsPicksユーザベースのブランドを確立することができなかった。
そのため、スマートフォン向けビジネスメディアとして既に確立された読者基盤を持っていたQuartz社の買収に切り替えたのと考えられる、そのためにDow Jonesとの提携は解消、NewsPicks USAは完全子会社化した。2019年3月期までで2018年12月期、ユーザベース社が保有するNewsPicks USAの持分の損失を含む持分法による投資損失は年間1.8億円が計上されていた。

ところが19年度第1四半期決算においてQuartz事業は6.3億円の売上に対して約9億円もの赤字を計上。同一セグメントに繰り入れられたNewsPicks USAの損失を差し引いても、Quartz単体で8億円程度は赤字という計算だ。

昨期までユーザベースQuartz社を従来の広告・ソリューションビジネスによって収益を上げるモデルから、課金型モデルに切り替えるために今後年間で20億円ほどの投資を行うと宣言している。


(ユーザベース社の19年3月期決算説明会資料より引用)

しかし、追加の投資額を差し引いたとしても、Quartz事業の赤字は解消に向かっていないように見える。それに加えて滞留している売掛金が回収できない場合には当然、更なる赤字の計上が必要となる。そうした状態が恒常化すれば、減損リスクの顕在化は現実的になる。

それでもユーザベースは、08年にリーマン・ショックが起きて金融機関がコスト削減に走るなかでも、金融機関向けに高額の課金サービスを提供するSPEEDA事業一本で倒産を免れた。

また、13~14年当時には不可能と言われていた、「課金型のスマホメディアの確立」をNewsPicksでやってのけたという実績を持っている。今回、Quartz事業でもそうしたブレークスルーに期待したいが、SPEEDA事業とNewsPicks事業でも投じている大胆な先行投資がそれを難しくしている。

SPEEDAとNewsPicksの現状- 収益源は頭打ち、重い先行投資

契約ID数の推移
(ユーザベース社の19年3月期決算説明会資料より抜粋)

SPEEDA事業は16年度第2・第3四半期を除いて伸び続けており、ここ2年間も安定して前四半期比4~8%ID数を増加させている。ただ、国内マーケットの飽和は遠からず訪れる。
同社は早くからそれを見越し、創業5年目の13年から中国・上海と香港に拠点を構え、現在ではシンガポールも含めて幅広い国で営業活動を実施している。しかし、現在のところ、ID数に占める海外の割合は1割強に留まっている。

事実、15年度から海外事業の成長率は伸びていない。その対策として同社は、17年1月に非上場企業情報のデータベースを有するジャパンベンチャーリサーチ社を買収、同年5月にはBtoBマーケティングサービス「FORCAS」をリリースするなど、SPEEDAというプラットフォームのコンテンツの拡充に注力してきた。

しかしながらジャパンベンチャーリサーチ社は2019年5月に公表された第9期決算公告では2億1200212万円の赤字、FORCASは19年5月に公表された第2期決算公告では1.95億円の赤字と、先行投資が重くのしかかっている状態である。

NewsPicks事業は有料会員からの購読料と企業からの広告費で収益を上げている。購読料による収益については月額1400~1500円の有料会員数がKPIとなっているが、直近の19年度第1四半期時点では、前四半期比で大幅に成長鈍化し、9万8334人にとどまった。

SPEEDA海外事業の前四半期成長率
(ユーザベース社の20年3月期決算説明会資料より抜粋)

無料会員に関しても、売上高1889億円(2018年度)を誇る日本経済新聞社でさえ、グループ全体での会員ID数は約800万人に過ぎない。NewsPicksの現在の会員数は約400万人。ほぼ潜在層を取りつくした段階といえる。

そうなると、月額5000円のアカデミア会員を増やすなど、1読者あたりの課金単価を引き上げる施策が必要となる。その目玉となるのは動画コンテンツだ。
NewsPicks初代編集長である佐々木紀彦氏が自ら番組に出演したり、タクシー内のディスプレイ広告を打つなど積極的にサービス拡充・宣伝を行っているが、動画コンテンツは文字・画像ベースの記事コンテンツよりも格段にコストがかさむ。それをペイするような施策となっているか不明瞭である。

第1期決算公告
(官報より引用)

電通と共に18年に立ち上げたNewsPicks Studios社がこうした動画コンテンツの制作を担っているが、同社の第1期決算は7477万8千円の赤字となっている。

15年以降、日本ではスマートフォンでの動画視聴時間が伸長し、動画広告市場は17年度の1374億円に対し24年は4957億円と4倍近くに増加することが見込まれている。

そうした市況を背景に様々な動画関連ベンチャーが成長している。例えば13年6月に創業したYoutuber事務所事業を手がける「UUUM」社は17年に創業から4年で上場、現在は動画広告の制作などを主事業に時価総額700億円以上の会社となっている。

一方で、メディアそのものを作り黒字化できているベンチャー企業はほとんど存在していない。15年にテレビ朝日との合弁でインターネットテレビ「AbemaTV」を立ち上げたサイバーエージェント社は18年度には動画事業で190億円もの赤字を計上した。また、動画マガジン「MINE」などを運営する3ミニッツ社は日本のソーシャルゲーム会社大手グリーに約43億円で買収されたが、そのうちの31.5億円は減損した。NewsPicks Studio社の未来も見通せない上、動画制作の先行投資が重くのしかかる。

国内のSPEEDA事業とNewsPicks事業という限られた2つの収益源に対して、「Quartz」「SPEEDAの海外事業」「動画」と3つもの大きな投資に舵を切るユーザベースF。大胆な戦略を維持するための財務戦略は、曲がり角を迎えている。

※行使下限価格について「3160円」と表記しておりましたが、正しくは「3275円」でした。訂正の上、謹んでお詫び申し上げます。
※文中、「ユーザベース社が保有するNewspicks USAの持分の損失は年間1.8億円が計上されていた」と表記しておりましたが、正しくは「2018年12月期、ユーザベース社が保有するNewsPicks USAを含む持分法による投資損失は年間1.8億円が計上されていた」でした。訂正の上、謹んでお詫び申し上げます。
※売掛金につきまして、「18年度第3四半期までで3.2億円」と表記しておりましたが、正しくは「18年度第2四半期までで3.7億円」でした。訂正の上、謹んでお詫び申し上げます。
※ジャパンベンチャーリサーチ社の第9期決算につきまして、2億1200万円の赤字と表記しておりましたが、正しくは212万円の赤字でした。訂正の上、謹んでお詫び申し上げます。

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コメント

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    • johndoe
    • 2019年 6月 28日

    18年度第2四半期では3.7憶円
    約18憶円の売掛金が滞留したまま

    誤:憶円
    正:億円

    校正がまるで為されていないですね…

      • QuestHub
      • 2019年 6月 28日

      ご指摘ありがとうございます。
      訂正いたしました。

    • 右京
    • 2019年 6月 28日

    大変興味深く拝見させて頂きました。
    いままでの企業分析系のメディアで、ここまでのクオリティのものはほとんどなく、大変勉強になります。
    引き続き、エッジの効いた投稿を楽しみにしています!

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